ー滝本さんが料理の道に進むことになったきっかけはなんですか?
滝本:高校卒業後、音楽業界で働くために上京して、ロックバンドのマネージャーとして働いていました。もともとイギリスの音楽やカルチャーにとても興味があって、一度は自分の目や肌で感じたいと思い、25歳で単身渡英しました。現地でも音楽関係の仕事に就きたかったのですが、語学やビザの壁があり、生活費を稼ぐためにしょうがなくはじめたのが、現地の日本料理店の仕事です。日本人が少ないこともあって、はじめて半年経つ頃には、もうカウンターで寿司を握っていましたね。凝り性なこともあって、「どうしたら美味しくなるのか」をどんどん追求していった結果、気づいたらそっちが本業になっていました。
ーはじめて半年でカウンターに立たれていたなんて、すごいですね!
滝本:現地で働ける日本人が少なかっただけで、特に技術が卓越していたわけではなかったと思います。ただ、当時から「向上心だけは誰にも負けないように」とは思っていました。特に僕の場合は「美味しい」と言ってもらいたい渇望が強くて…。家族の三食分の食事や、従業員のまかないなど、本当に一日中隙あらば料理していましたね。
あとは、当時現地で一緒に働いていた日本人の師匠の存在も大きいです。高い食材ばかりを使うわけではないけど、作るものすべてが美しくて引き込まれる。きれいな握りかどうかは分かりませんが、なんだか生きているような、そんな握りをする方でした。師匠と出会えたことで、いち早く成長できたと思いますし、技術や考え方、美学は今でも影響を受けていると思います。
ーその後、どうして氷見でお店をはじめようと思ったのですか?
滝本:10年前にイギリスから帰国し、久しぶりに氷見に帰ってみると、家の前の市民病院が広大な空き地になっていて…もともと実家も商売をやっていたので、小さい頃過ごした活気のあるまちなみと現在の光景との違いにショックを受けました。ただ、改めて氷見のまちを巡ってみると、食材や文化、流れる空気感など、ほかのまちには負けないものがあると感じました。都市部や海外で暮らしたことで、客観的に地元の良さを受け入れることができました。変わったまちなみを前に「10年後に氷見でお店を開きたい」そう決意しました。
ただ、僕のキャリアはあくまで海外で学んできたもの。日本人のお客様を相手にするのであれば、もう一度修行し直さなければいけないとも感じていました。知り合いもいなかったので、当時唯一知っていた銀座の老舗有名鮨店に直接電話をして想いを伝えました。1週間後、幸いにも「今すぐ東京に来なさい」と言ってもらえて、そこから東京での修行がスタートしました。
ー富山の寿司店ではなく、日本有数の超有名店に修行に行かれたんですね。
滝本:歴史ある老舗有名店に行けば、何千人という板前が培ってきたすべての結晶が吸収できると思ったんです。歴史の中に隠された技や考え方、接客の技術など、今後お店を出すときに絶対にプラスになる。とにかく吸収してやろう、そんな思いで門をたたきました。
ー実際に修行に行かれてみて、いかがでしたか?
滝本:とにかく厳しい世界でしたね。掃除や雑用、先輩のヘルプなど気がつくことはなんでもやりました。その過程でアンテナを立てて動く力を養うことができたと思います。あとは、やっぱり忍耐力ですね。飲食業に携わっていると、どれだけ上に行っても必ず忍耐力は必要となってくると思います。叱咤激励してくれる、本当にいい先輩方に恵まれました。
ー修行後、一からお店を作り上げていくにあたって、どのようなお店にしたいと思っていましたか?
滝本:すべてはお客様にとって居心地の良い空間になっているかどうか、そこにこだわって作っています。たとえば、座ってもらう椅子。長時間座っていてもくつろげるような、かといって料理から気持ちが離れないように、クッションや肘置き、背もたれの位置など細部までこだわったデザインのものを使用しています。他にもいろいろありますが、外装や内装にいたるまで、すべて自分で納得できるものを選んでいます。
ー実際にお店をオープンしてみて、いかがですか?
滝本:お店をはじめてみると、いたる所で「滝本商店の次男坊か!」と、声をかけていただきました。「お祖父さんにはとてもお世話になった。あなたが小さかった頃が懐かしい」と涙ぐまれる方もいらっしゃるほどです。お店をはじめたことによって、この地で「滝本商店」が代々築き、受け継がれてきたものを感じ取ることができました。
東京で修行に励んでいたときも、大変なことはたくさんありました。いま思えば、幼少期から頑張って働いている家族の姿をみてきたからこそ「商売ってこんなもんだろ」と、容易に受け入れることができた。家族がこの土地で、日々のお客様を大切にしてくれていたからこそ、いまスムーズに商売ができていると強く感じます。
ーお店をオープンしてみて、「やってよかったな」と感じた瞬間はありましたか?
滝本:そこは料理をはじめたときの原動力から変わっていなくて、目の前にいるお客様から「美味しかったよ」と言ってもらえるときですかね。本当に心から美味しかったときの顔って、嘘はつけないと思っていて。今も昔もその姿をみると「もっと頑張ろう」って思います。
この仕事は、カウンターを挟んで目の前のお客様と繰り広げられるものがすべてです。音楽関係の仕事をしていたときも、ライブ中にアーティストとファンが掛け合うことで一つの空間になっていったとき、なんだか胸にグッとくるものがありました。そこは、いまの仕事にも通じるものがあるかもしれません。それをとことん追求していく、それだけです。
ーこれから氷見で創業したい方へのメッセージをお願いします。
滝本:氷見の良さって、ずっと氷見で暮らしていると意外と気づけないものかもしれません。客観的に外と氷見を比べられる視点が大事だと思っていて、もしちょっと寄り道ができるのであれば、いろんな世界を経験してから創業してもいいと思います。あとは、走りながら軌道修正していくこと。考えすぎず、とにかく飛びこんで、走っていくこと。僕の経験上、その方がいい結果に結びついてくることが多かったです。僕も体が動く限り、生涯現役でいたい。やれる限り、氷見でお店を続けていきたいと思います。
成希
住所 / 富山県氷見市幸町32-31
営業時間 / 18:00〜22:00
定休日 / 水
TEL / 0766-74-5151
駐車場 / 4台
KEYWORDS
- Uターン
- 寿司
- 職人
- 開業
- 飲食
- 魚、起業