INTERVIEW #

28

高校生の「やりたい」を応援する

西田朱里さん(氷見市地域おこし協力隊、ひみりべ。)

KEYWORDS

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  • 移住
  • 開業
  • 高校生

2024.03.10 UP

市内唯一の高校である県立氷見高等学校では、市や地域の大人と連携した地域協働型の探究学習に力を入れている。2020年に地域おこし協力隊として氷見高校に赴任した西田さんは、学校と地域をつなぎ、生徒の興味関心に基づいた活動になるようにサポートを行う、教育魅力化コーディネーターだ。氷見高校では毎年30を超えるプロジェクトが実行され、これまで関わってきた大人は延べ300人以上になるという。2023年には氷見駅前の空き物件をリノベーションし、学生が集うコミュニティスペース「ひみりべ。」をオープン。学内・外問わず、高校生の「やりたい」を応援している。神奈川県出身の西田さんが「高校生の世界を拡げたい」と、氷見のまちで挑戦する姿を見せてもらった。

取材・文 / 一川有希



– 教育魅力化コーディネーターとはどのようなお仕事ですか?

氷見高校で「未来講座HIMI学」(以下、HIMI学)を中心とした、地域協働型の探究学習のコーディネートを行っています。HIMI学では「商店街に若者を呼び込むためには?」「『ハンドボールの街』を活かしたまちづくり」「LGBTQについて関心を持ってもらうための方法」など、生徒一人ひとりの関心をもとにテーマを設定し、実際に地域に出て学びを深めていきます。私の仕事は、全体のカリキュラム作りや、各先生方との調整、地域の大人と高校生をつなぐ役割ですね。氷見に赴任して3年以上経ちますが、これまで累計100以上のプロジェクトが生まれています。

– 特に記憶に残っているプロジェクトはありますか?

2021年に高校生が主体となってマルシェを開催したことですね。HIMI学をきっかけに地域に出たことによって高校生達も「氷見は良いところだけど、それを知らない人が多い」と課題に感じたようです。そこで周囲の飲食店などに声をかけ、「食を切り口に若者に氷見の魅力を伝える」をコンセプトにマルシェを開催し、当日は200名程の来場者が集まりました。学生の「やってみたい」をきっかけに地域の大人達と協力しながら実現できた、良い例だったと思います。実は今も、生徒が主体となって始めたプロジェクトが進みつつあります。またお知らせできる時を楽しみにしていてください。


– 地域の大人と高校生をつなぐ上で、大切にしていることはありますか?

外部の人に関わってもらうときに大切にしているのが、「互いのニーズをすり合わせ、Win-Winの状態をつくる」ということですね。学校側が一方的に支援をお願いしていては、長い目でみると継続していきません。学校側からの要望だけではなく、地域の大人達からやりたいことや困っていることなどを情報提供してもらい、それをもとに生徒が課題解決に向けて取り組むこともあります。地域にとっても学校にとっても「関わってよかった」と思ってもらえるように意識しながら、日々コーディネートを行っています。


– 実際に授業を受けている生徒達に変化などはみられますか?

感覚的なところもあるかもしれませんが、「前より堂々としているな」「自分の意見を話すようになったな」と感じることも多いです。嬉しかったのは「昔は絶対できなかったけど、HIMI学を通じて自分から行動できるようになった」と言ってくれた子がいたことですね。地域の大人にアポイントをとったり、プロジェクトを企画・実行していく過程で、自然と自分から一歩を踏み出せるようになっていたようです。他にも「もっと氷見を応援したい」「地域の活性化について学びたい」と、進路に活かしてくれる子もいました。今は送り出したばかりなので、将来その子達が氷見に戻ってくるかどうかは分かりませんが、主体的な選択を後押しできたことは、意義があったと思っています。



– そもそも西田さんがこの仕事に興味をもったきっかけは何だったのでしょう。

高校、大学、社会人を経て、若者が自信を持って将来を選択するには何が必要なんだろうと考え始めたことからですね。

私自身も高校時代は部活に打ち込んでいたこともあり、受験時の進路選択には相当苦労しました。興味がある分野はあっても決め手に欠けるし、いま見えている狭い世界だけで将来を決めなければいけないことに漠然とした不安がありました。結局、自分の得意科目で受けられる偏差値の高い大学に進学しましたが、「これで良かったんだろうか」という想いは捨てきれなかったですね。

地方に興味を持ち始めたのは大学生のとき。当時の友人が地方に短期インターンに行っていたのが楽しそうだったので、私も富山県小矢部市にある印刷会社の短期インターンに応募しました。長年都会で暮らしていたため、初めて富山に来たときは「本当にトトロみたいな風景ってあるんだ!」と、大興奮(笑)。そのときに氷見の久目地区でよろず屋として活動しているサントス(佐藤文敬)さんと出会い、「氷見をなんとかしたい」と主体的に取り組む人々や地方の暮らしぶりを紹介してもらいました。これまで知らなかった地方の魅力を目一杯に感じることができた一方で、「本来ならば高校時代にこんな経験をしてみたかった」と感じたのを憶えています。

その後は出版会社を経て人材会社に就職し、新卒採用に関する仕事をしていましたが、学生の多くが条件でしか企業を見ていないことを知りました。「大学進学や就職活動など、人生の節目となるタイミングの前に自分自身と向き合うためには何が必要だろう」と考えたときに、やはり教育しかないな、と。

その後島根県で行われている「高校魅力化プロジェクト」と出会い、「私がやりたいことはこれかもしれない…」と思い始めたタイミングで、縁のあった氷見市で教育魅力化コーディネーターの募集が始まり…現在に至ります。



– ご自身の体験談がきっかけだったんですね。2023年にオープンしたコミュニティスペース「ひみりべ」は、どのような場所ですか?

教育魅力化コーディネーターとして関わるなかで、高校生が地域とつながり、より深く自身の興味関心と向き合うことができる場所を作りたいと思い、立ち上げたのが「ひみりべ。」です。現在は、週3〜5日ほどオープンしていて、電車待ちの高校生や放課後に行く場所がないから遊びにきたという中学生など、様々な学生に利用してもらっています。最近では、釣り好きな中学生が「魚でなにかやってみたい!」と、鍋パーティーを企画してくれたり、希望進路の先輩と話をする機会を設けたり、金沢大学の学生団体と一緒にワークショップをしたりと、少しずつ学生の「やってみたい」を実現したり、興味関心を拡げるような場になってきました。テストの点数や偏差値を上げることも大切ですが、ここでは周囲の多様な大人と関わりながら、小さく自分のやりたいことに挑戦できる場になっていけたらいいなと思います。



– 学生の「やりたい」が集まる場所、素敵ですね!ちなみに西田さんは、縁のあった久目地区に住んでいるということですが、都会暮らしと比べて地方の暮らしはいかがですか?

思ってた以上に田舎暮らしが自分に合っていたみたいで、毎日とても楽しいです!元々好奇心の強いタイプなので、地域の人に道具を貸してもらって釣りやDIYに初挑戦してみたり、近所の方から食べたことのない食材をおすそ分けしてもらって郷土料理を作ってみたりと、田舎暮らしを満喫しています。

地元の方は「氷見は退屈だ」と言いますが、私としては都会よりよっぽど久目のほうが刺激的(笑)。田舎だと近所のコミュニティや暮らしの知恵で自然と「やってみたい」が実現できてしまう。氷見には一見気づかない良さがたくさんあると思います。

コミュニティ・スペース ひみりべ。

住所 / 富山県氷見市伊勢大町1丁目8−4
定休日 / 不定休

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